『ロマンスのココロ』 唐沢俊一ユニット 第7回公演 ①

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作・演出 : 唐沢 俊一
劇場 : ウッディシアター中目黒
公演期間: 2016年3月24~28日公演

あらすじ :
弱小製薬会社の窓際管理職・袋春平はもと、ボクシングの
四回戦ボーイ。ある事件でボクサーを廃業、スポンサー企業の
社長に拾われて、しがないサラリーマン生活を送っていた。

だが、その会社に突如、香港の大手薬品会社との合併ばなしが
降ってわく。しかも、そこのCEOと社長の娘との政略結婚ばなしまで。
2人のデートのボディガードを命じられた春平。

会社のため職務を果たすか、秘かに愛する人がいる娘のために
この結婚を破談にするか? 彼の心の中の良心と邪心は大ゲンカを
はじめるが……。

おいでいただいた方、ありがとうございました。

われながら、不思議な舞台だった、というのが公演終えての感想です。

稽古中に、役者さんたちから「この役をこうしたい!」「設定をこうして欲しい!」という要求がどんどん出てきました。最初、役に不満があるのかと不安になりましたが、よく聞いてみるとまるで逆で、この役が好きで、掘り下げたい、もっと演じたい、というところからの希望でした。脚本改訂はうちのユニットはよくやるのですが、ここまで何度も、変更がある芝居は初めてでした。最初はとにかくナンセンスで攻めて行こうと思った脚本が、次第にロマンス先行になっていきました。もっとも、台本も今回はテーマ性を明確にしようと、全編ギャグではなかった(例えば良心と邪心の過去が語られるシーンは、最初からシリアスで書かれていました)のですが。

モーツァルトのオペラの代表作とされる『魔笛』も、話の筋立てが複雑で、しかも混乱しているとよく言われます。それは、台本を書いた大衆劇団の座長、エマニュエル・シカネーダーに、演じる役者たちからああしてほしいこうしてほしいという注文がどんどん入り、それに従っているうちに、話の辻褄が合わなくなる部分が出てきたため、と言われています。200年以上の時を経ても、演劇における事情というのは変わらないのだな、と思い苦笑したり、とはいえ辻褄が合わなくなるのは避けよう、と頭をひねったり。

そのため稽古は遅れに遅れ、感情的な対立も生まれてしまいました。芝居を作っていて、演出する方、作る方、対立は常にあるもの、とはわかっていることでしたが、自分がここまで感情をあらわにする、それももっとも信頼している役者に対して憤る、というのは本当に意外でした(もちろん、すぐに仲直りはしましたが)。

「果たしてこの芝居は完成するのか」という不安が胸の中に生じてきました。ところが、話が何とかまとまり、稽古も終盤に期間になってからの追い上げが凄かった。最初に粗通し(最初から最後までやってみること)が出来たのが本番一週間前というていたらくでしたが、その時あちゃあ、という表情をしていた演技指導の秋葉さんが、その次の通しの感想で、
「よくあの翌日でここまで完成に近づいた」
という感想を口にしたほどでした。役者さんたちがうるさく口出しをしてきたのも、みな、この芝居が好きで、自分の演じる役柄が好きだった、からなのでしょう。だから集中力が違った。一番驚いたのは、最初の通しでの上演時間が2時間で、これはコメディとしては長過ぎる、15分縮めて1時間45分にしなければ、と思っていたものが、次の通しで、何も手を加えていないのにも関わらず、ぴったり1時間45分に縮まっていたことです。役者たちがノってきて、テンポがよくなったからだと思います。

そして迎えた初日。お客さんの反応はまっぷたつに別れました。
「唐沢ユニットの最高傑作!」
というものと、
「コメディなのに笑えない。失敗作」
というものでした。前者はストーリィ中心に観たお客様、後者はコメディとして観たお客様の感想です。前者の感想は嬉しく、励みにもなりましたが、告知にも“コメディ”と銘打ってある以上、笑えないという反応は明らかにNGです。やはり改変すべきではなかったのか、いや、なまじ中途半端にコメディ要素を残したのが失敗で、いっそロマンスに完全に傾けた方がよかったのではないか。うーん、稽古期間の前にもっと練っておくべきだった、とほぞを噛む思いでした。

……ところが(二度目のところがですが)、それからこの舞台はぐん、と変化してきたのです。まず、2日目から、目に見えて笑いが起るようになってきました。それは、ギャグの数が少なくなった分を、ギャグ担当の役者たちが、大きさでカバーしようと、大胆に笑いを取りに行き始めたこと。そして、全体のバランスが急速に取れてきたこと、が原因と思います。それまで、個々に役を演じていた役者のみんなが、『ロマンスのココロ』という作品の一員という意識を持って作品に加わるようになってくれた。もちろん、ロマンス担当の役者さんたちも、それに負けず“きゅん”と言わせようと頑張りはじめた。

3日目、その両者は相まって、笑いも涙も、最高の2ステを迎えました。この日、フライヤーのイラストを描いてくださった前田ヒロユキさんがお見えだったのですが、面白がってくれるどころか、ハマってしまい、役者たち全員の似顔絵を描く、とまで宣言してくださいました。

本当はこれはよくないことなんでしょう。初日であれ千秋楽であれ、同じ代金を払って観に来てくださるお客さまにお見せする舞台に、質の上下があってはいけない。……しかし、そこは演劇というナマモノの曰く言いがたいところ。まだ青臭くて固い時期から、次第に甘みが増し、完熟し、少し傷んでくる、といった果物のようなサイクルをどうしても経るのですね。

打ち上げは大盛り上がりになりました。私は一気に疲れが出てダウンしましたが、役者たちは去りがたく離れがたくという気持ちだったのでしょう。朝4時半の解散の後、さらにカラオケに行って8時過ぎまで騒いでいたようです。こういうのも私のユニットでは初めてでした。

もっと準備期間を取り、また、上演期間をもう少し長くとれば、この作品、名実共に唐沢ユニットの代表作となったでしょう。それを目標としていた身として考えれば、失敗作と言えます。……しかし、役者たちの役へのハマり込み方や、作品への愛情の度合は、これはこれまでのどんな作品よりも勝っていた。私としては、満足感は大きいのに、達成感はない。まだまだ上を目指せたはず、という思いに胸がずっと掻きむしられています。

10月の舞台はこれとはまた毛色が変わったもので同一には論じられませんが、しかし、この『ロマンスのココロ』で学んだこと、反省すべきことは、来年に活かし、仕掛も作り、勝負に出よう。……そんなことを秘かに決意した公演でした。

唐沢俊一

引用元: Youtube
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